肩関節の安定性に関与するローテーターカフ。
その中でも小円筋(teres minor)は、比較的注目されにくい筋ですが、後方不安定性や肩関節外旋の弱化を評価・治療する上で非常に重要です。
本記事では、解剖学的特徴から評価・リハビリテーション介入まで、臨床に活かせる視点で解説していきます。
小円筋の基礎解剖
- 起始:肩甲骨の外側縁(上部 2/3)
- 停止:上腕骨大結節の後下面
- 神経支配:腋窩神経(C5・C6)
- 筋の走行:肩甲骨の外側縁から外上方へ走り、大結節の後方に付着
- 作用:
- 肩関節の外旋
- 肩関節の水平外転
- 肩関節後方の安定化(後方関節包の引き締め)
- 分類:ローテーターカフ(回旋筋腱板)の一部
- 協働筋:棘下筋(特に外旋動作で共同して働く)
棘下筋との作用が似ており、触診やMMTでは両者の分離が難しいが、水平外転や肩関節後方安定性評価で注目される。
小円筋の触診と評価
触診のポイント:
- 被験者を腹臥位または側臥位にする。
- 肩関節を軽度外転・内旋した状態で、肩甲骨外側縁から大結節に向けて触知。
- 抵抗外旋を加えると収縮を確認しやすい。
評価方法:
- 肩関節外旋MMT(他動制限なし前提で3〜5を評価)
- 外旋ラグサイン(ERLS)
→ 小円筋や棘下筋断裂の有無を確認 - ポステリア・ストレステスト
→ 小円筋が肩関節後方安定性に関与しているかをチェック
小円筋の臨床での重要性
ローテーターカフ断裂との関係
高齢者や野球などのオーバーヘッドアスリートでは、棘下筋とともに断裂することも。MRIやエコーでの鑑別が重要。
後方関節包の安定化
小円筋は肩関節後方の安定化に重要で、脱臼後のリハビリや後方インピンジメントの評価・介入対象となる。
腋窩神経麻痺との関係
腋窩神経障害があると小円筋の筋萎縮が見られ、肩関節の後方不安定性や外旋弱化の原因となる。

小円筋のトレーニング
セラバンド外旋トレーニング
- 肘を体側に固定して90°屈曲
- チューブを使って軽度外転位での外旋運動を指導
Prone Horizontal Abduction with External Rotation
- 腹臥位で肩外転90°、外旋位で肩関節水平外転を挙上
- 小円筋と棘下筋に高負荷
セラピスト主導での後方スタビリティトレーニング
- 四つ這い位で手部に外旋負荷を与えながら肩関節の安定性トレを行う
小円筋のストレッチ方法
基本の小円筋ストレッチ(仰臥位・パッシブ)
- 対象者の姿勢:仰臥位
- セラピストの操作:
- 対象側の肩関節を90°外転、肘関節を90°屈曲
- 内旋方向へゆっくり他動的に動かす
- 小円筋の伸張感を確認(肩後方に緊張感)
- 注意点:肩前方の代償(肩甲骨前傾)を防ぐため、肩甲骨を軽く固定する
自主練習としてのストレッチ(壁を使った方法)
- 姿勢:立位で壁を背にする
- 動作:
- 肘を90°に曲げた状態で肩関節を90°外転
- 前腕を壁につけて、上体を前に倒すようにして肩内旋方向に伸ばす
- ポイント:肩前方の痛みが出ない範囲で、肩後方の伸張感を感じる位置で15〜30秒キープ
小円筋の臨床応用ポイント
- 小円筋は腋窩神経(C5・C6)に支配されており、同じく腋窩神経支配の三角筋と併せて臨床評価が必要。
- 腋窩神経は腋窩の後方を通り、小円筋の深部を走行するため、脱臼や後方の圧迫によって障害を受けやすい。
- 小円筋の萎縮や筋力低下が見られる場合は、腋窩神経麻痺の可能性を視野に入れるべき。
- 肩関節後方脱臼後の安定化訓練において、小円筋の筋力強化が重要
- ローテーターカフ損傷(特に棘下筋と併発)の鑑別・術後リハビリにおいて小円筋の再教育が必要
- 肩関節外旋筋群の筋力評価やトレーニングでは、棘下筋との機能差も考慮しながら介入
- オーバーヘッドスポーツ障害(投球肩など)において、小円筋のタイミング改善が肩後方安定性向上につながる
- 後方インピンジメント症候群の予防・改善に小円筋の筋力と協調性が鍵となる
- 肩関節水平外転動作のコントロール訓練では、小円筋をターゲットにした運動選択が有効
- MMTでは棘下筋と共に評価されやすいため、機能解剖や画像所見を用いた筋別アプローチが求められる
まとめ
小円筋は棘下筋と同様に肩関節外旋に関与し、特に肩後方の安定性を担保する筋として臨床的な重要性が高い筋です。
棘下筋と共通する部分が多いものの、腋窩神経支配である点や水平外転作用がある点はリハビリ評価におけるポイントとなります。
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