大円筋(Teres major)

機能解剖学

概要

大円筋(Teres major)は肩甲骨と上腕骨をつなぐ筋で、肩関節の内旋・伸展・内転に関与する筋です。

ローテーターカフとは異なる機能を持ちながら、肩関節の安定性と動作に密接に関わる重要な筋であり、臨床では肩関節障害や肩甲帯機能不全の背景因子として注目されることも少なくありません。


解剖学的特徴

  • 起始:肩甲骨の下角(inferior angle)
  • 停止:上腕骨の小結節稜(medial lip of the intertubercular sulcus)
  • 神経支配:肩甲下神経(C5~C6)
  • 作用
    • 肩関節の内旋
    • 肩関節の伸展
    • 肩関節の内転

このように、広背筋と非常に近接した走行を持ち、しばしば機能的・形態的にも協働して動作します。


触診方法

  1. 被験者を側臥位または腹臥位にする
  2. 肩甲骨の下角を触知
  3. そこから外側上方へ指を滑らせると、大円筋に触れる
  4. 被験者に肩関節の内旋・伸展を行ってもらい、収縮を確認

広背筋との鑑別には、肩関節を屈曲させた状態から内転運動を加えることで、広背筋が主動となるかを確認するといいです。


臨床的意義

  • 肩関節可動域制限の要因:特に内旋制限、伸展制限の一因として、大円筋の短縮や緊張が関与することが多い。
  • 投球動作や水泳における負担筋:肩甲骨の過剰な前傾や下制と連動しやすく、オーバーユースの温床になりやすい。
  • 広背筋や小円筋との機能連携:動作時の代償パターンに大円筋が優位に働く場合、回旋筋腱板機能の低下が背景にある可能性がある。

機能低下の評価方法

  • 肩関節の内旋・伸展の筋力テスト
    • 抵抗運動に対する出力をMMTやハンドヘルドダイナモメータで測定。
  • 可動域制限の評価
    • 肩関節の外旋・屈曲の終末域で大円筋の緊張による制限を確認。
  • 肩甲骨の可動性評価と併用
    • 肩甲骨の下制・前傾の可動性と関連していることが多く、姿勢評価との組み合わせが重要。

トレーニング・ストレッチ方法

トレーニング(筋力強化)

  • セラバンド内旋エクササイズ
    肘を体側に固定し、セラバンドを使って内旋運動を行う。大円筋が収縮するよう意識する。
  • 肩関節伸展トレーニング
    伏臥位で腕を後方に伸ばす動作を繰り返す(必要に応じてダンベルを使用)。

ストレッチ

  • 肩関節屈曲+外旋+外転ポジションでの持続的伸長
    例:四つ這いの状態で腕を前に出し、脇の下を伸ばすように体を沈めるポーズ(チャイルドポーズの変法)
  • 壁押しストレッチ
    壁に手をついて肩を外旋させることで、大円筋に伸張をかける。

まとめ

大円筋は目立ちにくいながらも、肩関節の動作において非常に重要な筋肉です。

特に内旋・伸展・内転動作に関与し、他の肩甲帯筋群との協調や代償動作に深く関与します。

理学療法評価においては、姿勢や肩関節機能障害との関連性を踏まえ、的確に触診・評価・介入を行うことが重要です。

大円筋に対する適切な介入は、肩の可動域改善や肩甲帯安定性の向上にもつながります。

コメント

タイトルとURLをコピーしました