肩甲下筋(Subscapularis)

肩甲下筋は、肩関節の安定性と内旋運動において中心的な役割を果たす筋肉です。

ローテーターカフ(回旋筋腱板)の中で唯一、肩関節の前方に位置し、上腕骨頭の前方脱臼を防ぐ重要な構造です。

しかし、その深層に位置するため、触診や評価が難しく、臨床でのアプローチには工夫が求められます。


解剖学的特徴

  • 起始:肩甲下窩(肩甲骨前面)
  • 停止:上腕骨小結節
  • 神経支配:肩甲下神経(C5–C6)
  • 主な作用:肩関節の内旋、前方安定化

肩甲下筋は、肩甲骨の前面から上腕骨小結節に付着し、肩関節の内旋と安定化を担います。

また、深層線維は関節包に直接付着し、関節の前方安定性に寄与しています。 


触診方法

  1. 脇を少し開き、反対側の母指をできる限り腋窩に深く入れ込み、その後方にある筋群(大円筋、小円筋、広背筋)をつまみます。
  2. そのまま肩関節を約120°挙上すると、腋窩に押し込んだ母指に触れる膨らみが大円筋。
  3. 母指をその膨らみ(大円筋)の奥(上後方)に入れ込むと、大円筋の隣で母指の先端に触れるのが上腕骨頭の表面を覆う肩甲下筋です。

臨床的意義と評価

主な機能

肩甲下筋の主な機能は、肩関節の内旋前方安定化です。

特に、上腕骨頭の前方脱臼防止に重要であり、肩関節の安定性を維持するために不可欠です。

評価方法

Belly Press Test

肩関節下垂位の状態で腹部に手を当てさせ、肘を前方に押し出すようにお腹を圧迫するように(肩関節内旋)指示します。
肩甲下筋の機能低下がある場合、肘を前方に押し出すことが困難になります。

この際に、肘関節の位置が変化することなく腹部を圧迫することができれば、問題ないとされます。

しかし、肩甲下筋の機能低下がある場合には、腹部の圧迫とともに肩関節の伸展が生じて、肘関節が後方へと移動する現象が見られます

このテストをする上で注意する点は、腹部を圧迫する際に、大胸筋に過剰収縮が生じていないかどうかを確認することです。
肩関節下垂位で行う内旋運動には、大胸筋も作用するためです。
つまり、肘関節の変位のみに気を取られていると、大胸筋の代償を見逃してしまいます。

Lift-off Test

手のひらを背中に当て、その位置から手を後方に離すよう指示します。

肩甲下筋の機能を評価する特異的なテストであり、大胸筋の代償を生じさせないというメリットがあります。

このテストは、肩関節を伸展・内旋させます。
この運動では、大胸筋は全く作用しません。

注意すべき点は、肩甲骨が過度に前傾していないか確認することです。
肩甲骨の前傾が過度にみられる場合には、小胸筋・肩甲挙筋・前鋸筋上部繊維による代償の可能性が高くないrます。
そのため、肩甲骨を固定して行いましょう。

筋力評価

徒手筋力テスト(MMT)を用いて、肩甲下筋の筋力を評価します。

特に、肩関節の内旋運動における筋力を確認することで、肩甲下筋の機能状態を把握できます。


機能低下と臨床症状

肩甲下筋の機能低下は、肩関節の前方不安定性やインピンジメント症候群のリスクを高めます。

また、肩関節の外旋制限や可動域制限を引き起こす可能性があります。

特に、投球動作などのオーバーヘッド動作において問題が発生しやすくなります。


トレーニングとリハビリテーション

内旋運動(Belly Pressエクササイズ)

  1. 立位または座位で、セラバンドを臍の高さで固定します。
  2. 前腕を中間位に保ち、セラバンドを内旋方向に引きます。
  3. 10回3セットを目安に、内旋運動を繰り返します。

このエクササイズは、肩甲下筋の強化と肩関節の安定性向上に効果的です。

自主リハビリテーション

肩甲下筋は、上肢の重さを支える際に活動しやすくなります。

上肢を肩甲骨に軽く押していくことで、肩甲骨が間接的に動き、肩甲下筋を刺激し活動を高めることができます。

この自主リハビリは、肩周辺が硬い人もしくは低緊張で緩い方にも必要な刺激、練習になります。


まとめ

肩甲下筋は、肩関節の内旋と前方安定性において重要な役割を果たします。

その深層に位置するため、評価やアプローチには工夫が必要ですが、適切な評価とトレーニングを行うことで、肩関節の機能改善に大きく寄与します。

理学療法士として、肩甲下筋の機能解剖と臨床応用を理解し、患者の症状に応じた適切な介入を行うことが求められます。


肩甲下筋の詳細な解剖や機能については、以下の動画も参考になります。

この動画では、肩甲下筋の三次元的な動態や触診方法について解説されています。

視覚的に理解を深めるために、ぜひご覧ください。

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