高齢者に多くみられる大腿骨転子部骨折は、転倒による受傷が主であり、要介護状態の引き金にもなりやすい重篤な外傷のひとつです。
理学療法士として知っておくべき大腿骨転子部骨折の病態、分類、治療方法、術後の合併症について解説します。
大腿骨近位部骨折の分類
大腿骨近位部骨折は、骨折部位によって以下のように分類されます。
分類 | 主な特徴 |
---|---|
頚部骨折(内側) | 大腿骨頭に近く、血行が乏しいため骨頭壊死のリスクが高い |
転子部骨折(外側) | 大転子〜小転子を含む領域。血行が良好で、骨癒合しやすい |
転子下骨折 | 小転子よりも遠位で、転倒エネルギーが高いことが多い |

大腿骨転子部は大腿骨近位部の一部であり、大転子(greater trochanter)と小転子(lesser trochanter)を含む領域です。
股関節に近く、筋の付着部が多いのが特徴です。
- 大転子:中殿筋・小殿筋・梨状筋などの外転筋群が付着
- 小転子:腸腰筋の停止部位
- 解剖学的意義:歩行や起立動作に深く関与し、筋牽引力の影響を受けやすい
この部位の骨折は血流が比較的保たれているため骨癒合しやすいとされています。
大腿骨転子部骨折の分類
Evans分類(エバンス分類)
Evans分類は、大腿骨転子部骨折を安定型と不安定型に分けるシンプルな分類法です。

Evans分類では、受傷時および整復後のX線画像における内側骨皮質の連続性に応じて5種類の骨折型に分類しています。
- Type1
:骨折線が小転子から大転子の方向へ向かう - Type2
:骨折線が逆方向へ向かうもの
Type1のGroup1・2を安定型骨折(Stable)、Group3・4を不安定型骨折(unstable)と分けています。
基本的には、安定型骨折に対してはSHS(Sliding Hip Screw)、不安定型骨折に対してはSFN(Short femoral nail)の骨接合術が施行されうことが多いです。
- SHS(Sliding Hip Screw)
CHS(Compression Hip Screw)、DHS(Dynamic Hip Screw) - SFN(Short femoral nail)
γ-nail、PFNA(Proximal Femoral Nail Antirotation)
AO分類(AO/OTA分類)
AO分類は、骨折の形態や安定性に基づいて分類する国際的な基準で、大腿骨転子部骨折は「31-A」群に分類されます。

この分類は、骨折の複雑さや不安定性の程度を示し、治療法の選択に影響を与えます。
⬜︎で示す部分は安定型で、SHS、SFNどちらの治療でも対応可能です。
それ以外は、不安定型でSFNが有効な治療手段となります。
大腿骨転子部骨折の治療方法
転子部骨折の治療は原則として手術が第一選択です。保存療法はほとんど選ばれません。
■ 代表的な手術法
- SHS(Sliding Hip Screw)
CHS(Compression Hip Screw)、DHS(Dynamic Hip Screw) - SFN(Short femoral nail)
γ-nail、PFNA(Proximal Femoral Nail Antirotation)
■ 手術の目的
- 骨折部の安定化
- 早期離床・早期荷重
- 床ずれや肺炎などの二次的な合併症の予防
術後合併症と理学療法士の視点
■ よく見られる合併症
合併症 | 理由・背景 |
---|---|
深部静脈血栓症(DVT) | 長期臥床や高齢による血流停滞 |
誤嚥性肺炎 | 寝たきり状態や認知症の影響 |
圧迫性潰瘍(褥瘡) | 離床遅延や栄養状態不良 |
感染(創部感染) | 手術部位の衛生管理不良や免疫低下 |
転位・再転倒 | 骨粗鬆症や歩行能力低下が背景に |
理学療法士の役割
- 早期離床と起立・歩行訓練の開始(術後翌日から介入する施設が多い)
- 荷重範囲の確認(医師の指示と術式を踏まえる)
- 筋力維持と拘縮予防
- 疼痛管理と心理的サポート
- 環境調整や動作指導による再転倒予防
まとめ
大腿骨転子部骨折は、転倒を契機とする高齢者の代表的な骨折であり、早期の手術とリハビリテーションが回復の鍵です。
理学療法士は、術式の理解・荷重制限の把握・合併症の予防という多面的な視点から介入が求められます。
高齢社会において、今後も増加が予想されるこの病態に対して、確かな知識と観察力を持つことが、安全で質の高いリハビリテーションへとつながります。
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