大腿骨頸部骨折に対するリハビリテーション例

はじめに

大腿骨頸部骨折は高齢者に多く、運動機能や生活の質(QOL)に直結する重篤な外傷です。

治療法は大きく「骨接合術(ORIF)」と「人工骨頭置換術(BHA)」に分かれ、術式によってリハビリのポイントも異なります。

大腿骨頸部骨折の病態などについて
今回は、高齢者に多い大腿骨頸部骨折(だいたいこつけいぶこっせつ)について、リハビリテーション現場で役立つ知識をまとめました。特に、病態・分類・画像診断・予後まで幅広くまとめましたので、ぜひ臨床に役立ててください。大腿骨頸部骨折とは?大腿骨頸...

今回はそれぞれの術式を想定し、理学療法士が押さえておきたいリハビリの流れと注意点を整理します。

骨接合術後リハビリテーション

骨接合術(ORIF:Open Reduction and Internal Fixation)とは

骨折部を整復し、スクリューやプレートで固定する手術です。

自骨治癒を期待するため、「骨癒合までの過程」が非常に重要。

Femoral Neck System(FNS)

FNSは、従来のDHS(Dynamic Hip Screw)やMCS(Multiple Cannulated Screws)の利点を組み合わせた新しい固定システムです。​
A recent update on the fixation techniques for femoral neck fractures: A narrative review

  • 特徴: 最小侵襲でありながら高い固定力を提供し、軟部組織へのダメージを最小限に抑えます。​
  • 臨床評価: 2019年から2022年にかけて行われた研究では、26人の患者にFNSを使用し、良好な臨床および放射線学的結果が報告されました。再手術率は11.5%と、文献で報告されている範囲の下限に位置しています。

固定法の選択基準

骨接合術の選択は、以下の要因に基づいて行われます:​

その他の固定法

  • DHS(Dynamic Hip Screw): 高い安定性を提供しますが、侵襲性が高く、骨頭壊死のリスクが増加する可能性があります。​
  • MCS(Multiple Cannulated Screws): 最小侵襲であり、血流を維持しやすいですが、固定力がやや劣る場合があります。

急性期(術後~1週間)

  • 目標:局所安静・全身状態管理
  • リスク管理:出血、感染、深部静脈血栓症(DVT)、肺炎
  • リハビリ内容
    • ベッド上での体位変換、深呼吸訓練
    • 足関節ポンピング運動
    • 座位訓練(循環動態に注意)
  • 荷重制限あり
    → 多くの場合、免荷~部分荷重指示(骨癒合優先)

回復期(術後1週~2か月)

  • 目標:徐々に荷重を増やし、立位・歩行能力を回復
  • リハビリ内容
    • 松葉杖や歩行器を使用した歩行練習
    • 関節可動域運動(特に股関節屈曲・外旋を慎重に)
    • 筋力トレーニング(殿筋群、大腿四頭筋中心)
  • 荷重管理
    • 骨癒合を確認しながら医師の指示で荷重増加を進める。

維持期(術後2か月以降)

  • 目標:杖なし歩行や生活動作(ADL)の完全自立
  • リハビリ内容
    • バランス訓練、段差昇降
    • 地域リハビリ・自主トレ指導
  • 注意点
    • 骨癒合不全、遅延癒合の兆候に注意!
    • 疼痛や荷重時違和感には敏感に対応すること。

人工骨頭置換術後リハビリテーション

人工骨頭置換術(BHA:Bipolar Hip Arthroplasty)とは

→ 骨折部を切除し、人工骨頭(プロテーゼ)に置き換える手術。
→ 骨癒合を待たないため、荷重開始が早いのが特徴!

転位が大きい・高齢であれば人工骨頭置換術が選択される傾向にあります。

急性期(術後~1週間)

  • 目標:早期離床と廃用症候群予防
  • リスク管理:脱臼、感染、DVT
  • リハビリ内容
    • 術翌日から離床・立位練習開始
    • 荷重は全荷重(WBAT)許可が多い
    • 可動域制限のある術式(特に後方アプローチ)では
      • 禁忌
        後方アプローチの場合→股関節過屈曲、内転、内旋
        前方アプローチの場合→股関節伸展、内転、外旋
      • 脱臼予防の指導が必須

回復期(術後1週~1か月)

  • 目標:歩行自立と基本動作自立
  • リハビリ内容
    • 杖歩行(通常は術後2~4週で移行)
    • 日常生活動作(ADL)指導
    • 股関節周囲筋(特に中殿筋)強化
  • ポイント
    • 脱臼肢位を避けながら動作指導
    • 転倒防止に重点を置く(筋力、バランス訓練)

維持期(術後1か月以降)

  • 目標:家庭・社会復帰
  • リハビリ内容
    • 外出練習
    • 体力向上のための運動プログラム
  • 注意点
    • 長期的には「脱臼リスクは減る」が、「股関節周囲筋の筋力低下」による転倒には引き続き注意。

大腿骨頸部骨折後の自主トレメニュー

急性期(術後~1週目)

※ベッド上中心/離床に向けた基礎づくり

トレーニング名内容目的
① 足関節ポンピング仰向けで足首を上下に動かす血流促進・DVT予防
② 大腿四頭筋セッティング膝裏にタオルを入れて、膝を伸ばすように力を入れる大腿筋の萎縮予防
③ 殿部収縮訓練臀部をギュッと締める殿筋群の再活性化

回復期(1週~1か月)

※杖歩行に向けた筋力とバランス獲得

トレーニング名内容目的
④ 中殿筋側臥位リフト側臥位で患側の脚をまっすぐ上げる(内旋しない)中殿筋強化(立脚期安定)
⑤ ヒップアブダクション(立位)壁につかまり、横に脚を開く中殿筋・大腿筋膜張筋強化
⑥ ステップタッチ壁に手を添えて、横に一歩→戻るバランス・中殿筋活性
⑦ ミニスクワット椅子や手すりで支えながら、軽く膝を曲げる大腿四頭筋+殿筋強化

維持期(1か月~)

※日常生活・屋外歩行に必要な筋力を確保

トレーニング名内容目的
⑧ 前方ランジ(軽め)片脚を前に出して膝を軽く曲げる股関節+体幹の協調強化
⑨ サイドウォーク(チューブあり)セラバンドを膝に巻いて横歩き中殿筋・股関節外転筋群強化
⑩ 片脚立ちバランス安定した机につかまりながら、片脚立ち立脚バランスの再獲得

まとめ

骨接合術人工骨頭置換術
荷重開始遅い(骨癒合重視)早い(術翌日~)
リスク骨癒合不全脱臼
目標骨癒合+歩行回復歩行回復+脱臼予防
リハビリの特徴骨癒合を見極めながら進める早期離床・筋力強化重視

術式に応じた適切なリスク管理と段階的リハビリが、患者さんのQOL向上に直結します。

理学療法士として、しっかり評価・判断しながら、最適なサポートをしていきましょう!

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