はじめに
肩関節のリハビリにおいて、棘下筋(infraspinatus)の理解は極めて重要です。
特に、腱板機能、肩の安定性、外旋運動への貢献度を踏まえた上で、臨床介入を設計することが求められます。
この記事では、棘下筋の解剖、役割、評価方法、トレーニング方法をわかりやすく解説します。
棘下筋の解剖学的特徴
- 起始:肩甲骨の棘下窩
- 停止:上腕骨大結節(中部)
- 支配神経:肩甲上神経(C5~C6)
- 主な作用:肩関節の外旋、わずかな伸展と水平外転
棘下筋は回旋筋腱板(ローテーターカフ)の一つとして、肩関節の安定化に重要な役割を果たします。
棘下筋の機能と臨床的意義
肩関節外旋の主動作筋
- 棘下筋は肩関節外旋の主動作筋であり、特に肩90°外転位での外旋保持に強く働きます。
- 小円筋との共働関係が重要です。
肩関節の安定化
- 腱板の一部として、上腕骨頭の前方・上方偏位を抑制し、肩甲骨関節窩への中心化に関与します。
スポーツ動作での重要性
- 野球やバレーボールなど、オーバーヘッド動作での棘下筋の活性は非常に高く、損傷や過使用がよく見られます。
棘下筋の臨床評価方法
視診・触診
- 肩甲棘の下外側の窪みで筋委縮を観察。
- 特に腱板断裂がある場合、筋萎縮や陥凹が顕著です。
MMT(徒手筋力検査)
- 肩を中間位に保ち、抵抗をかけて外旋の力を評価。
外旋ラグサイン(External Rotation Lag Sign)
- 肩を外旋位で保持させ、保持不能で元に戻る場合は陽性。
- 棘下筋・小円筋の筋力低下や断裂を示唆。
Infraspinatus Test(棘下筋単独テスト)
- 方法:肘を90°屈曲し体側に付けた状態で、外旋方向に抵抗をかける。
- 陽性所見:疼痛誘発または筋力低下。
- ポイント:肩関節が屈曲位ではなく小円筋の関与が少ないポジションのため、棘下筋の選択的評価に適している。
棘下筋のトレーニングとリハビリ
初期段階:アイソメトリック外旋
- 肘を90度屈曲・体側に固定し、壁やタオルに押し当てて外旋方向に力を加える。
- 棘下筋に負担をかけすぎず、神経再教育が可能。
中期:サイドライイング・エクスターナルローテーション
- 側臥位で上腕を90°肘屈曲し、軽いダンベルで外旋動作。
- 筋電図的にも棘下筋の活動が高いことが確認されています。
後期:セラバンドでの外旋
- 肘を固定しながら、弾性抵抗で外旋。立位での安定性や協調性の向上を目指します。
棘下筋障害と臨床応用
- 棘下筋腱炎・部分断裂
→痛みと筋力低下、MMTでの左右差、萎縮の有無確認 - 腱板断裂
→筋委縮+外旋筋力低下+テスト陽性 - 肩インピンジメント
→棘下筋の不全な機能により関節不安定性が増大
まとめ
棘下筋は肩関節の外旋および安定化において非常に重要な筋肉であり、腱板機能の中核を担っています。
評価では視診やMMT、外旋ラグサインなどを活用し、リハビリでは段階的に負荷を高めるエクササイズを実施することが重要です。
肩の機能改善や再発予防のためにも、棘下筋の評価とトレーニングを臨床にしっかり取り入れていきましょう。
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