はじめに
股関節拘縮は高齢者のADL制限や腰痛・膝痛の原因となるだけでなく、人工股関節置換術後の転倒リスクや、二次的な関節障害へも波及しうる重要な問題です。
本書は、
「なぜこの患者に拘縮が生じたのか」
「どのように改善すべきか」
を評価から介入まで包括的に解説する一冊です。
執筆は、熊谷匡晃先生(臨床経験と研究実績に優れるPT)によるもので、林典雄・浅野昭裕両先生の監修のもと、現場でそのまま使える評価視点・運動療法戦略が多数紹介されています。
書籍の構成と章ごとの詳細
第1章:拘縮とは何か?―定義と臨床的意味合いの整理
- 拘縮の定義(関節可動域制限 vs 筋・関節包性の制限)
- 単なるROM制限として扱わず、「機能的な制限」として再定義
- 脳血管疾患や変形性股関節症との鑑別の視点
- 拘縮が日常生活動作(ADL)や姿勢制御に与える影響を解剖学的に整理
臨床Tips:
拘縮=ROM低下ではない!姿勢・重心位置・疼痛との関連を必ずチェック!
第2章:股関節拘縮の評価戦略
- 可動域評価(他動・自動・終末感の違いに注目)
- 運動連鎖・骨盤の可動性評価との統合的分析
- 動作観察からの「拘縮由来の運動制限」読み取り技法
- 仙腸関節・腰椎・膝関節との連携運動からの情報抽出
臨床Tips:
関節単体の評価では不十分!股関節は骨盤・体幹との連携の中で機能することを忘れずに。
第3章:拘縮のメカニズムと病態理解
- 筋・関節包・靱帯・皮膚の拘縮メカニズムを解剖学ベースで解説
- 前方・後方拘縮の分類と、それぞれの病態生理
- THA後、脳卒中後、関節疾患による拘縮の違いを具体例で整理
臨床Tips:
関節包後方線維の短縮≠単なる外旋制限!伸張方向の個別性に注目しよう。
第4章:評価に基づく運動療法アプローチ
- 拘縮パターン別の治療戦略(屈曲拘縮、外旋拘縮など)
- どの可動域を優先的に改善すべきか? → 代償運動から逆算
- 関節モビライゼーションとストレッチ、筋出力調整の組み合わせ
- 神経系アプローチ(随意性の評価)との併用法
臨床Tips:
「硬いから伸ばす」だけでは効果が出ない!運動再教育と神経-筋連携の視点が重要。
第5章:症例別アプローチ解説(THA後・片麻痺・高齢者など)
- 実際の臨床場面でのアセスメント〜介入のプロセスを詳細解説
- 股関節屈曲拘縮を有するTHA症例 → 骨盤後傾との関係性を治療の軸に
- 脳卒中片麻痺患者での非麻痺側拘縮への注意
- 高齢者の立ち上がり動作への影響と介入戦略
臨床Tips:
特に「非麻痺側」の拘縮が生活機能に強く影響するケースでは、動作全体の調和性評価がカギ!
この書籍のおすすめポイント
ポイント | 解説 |
---|---|
解剖学的・運動学的知見に基づく構成 | 股関節拘縮の“本質”を深く掘り下げた内容 |
現場に直結する評価・介入プロセス | 症例ベースでわかりやすく、即実践可能 |
神経筋連携にも着目した介入視点 | ストレッチだけに頼らない運動療法戦略 |
こんな理学療法士にオススメ!
この一冊は、以下のような理学療法士の方に特におすすめです:
「可動域制限=ストレッチ」だけに限界を感じている方
“なぜその可動域制限が起こるのか?”を構造的・神経的に考察したい方に最適。
関節包・筋・神経などの各組織にアプローチを使い分ける力がつきます。
股関節由来の動作異常を、動作全体から評価したい方
立ち上がり・歩行・階段昇降など、動作の中の股関節の役割を整理できるため、動作改善のヒントを見つけやすくなります。
THA後の機能障害や片麻痺患者の「非麻痺側拘縮」対応に悩んでいる方
疾患特性を踏まえた拘縮への考え方と対応方法が、豊富な実例とともに掲載されています。
即臨床に活かせます。
若手セラピストで、評価と治療の“つなぎ方”に自信がない方
「評価したけど、その後どうすればいいの?」を防ぐ評価→治療の一貫した流れが学べます。
初学者から中堅まで幅広く対応できる構成です。
運動連鎖や神経筋制御に関心のある方
表層的なROM評価ではなく、筋出力・重心移動・運動学的なバランスを重視した臨床推論が展開されており、動作分析を武器にしたい方に最適です。
おわりに
本書は、
「ROM制限の原因を正確に捉える」
「機能的な改善を目指す」
という点において、理学療法士の臨床推論を深める一冊です。
単なる可動域の改善ではなく、生活動作を良くするための治療戦略を持ちたい方には、特におすすめです。
書誌情報
- 書名:股関節拘縮の評価と運動療法
- 著者:熊谷匡晃
- 監修:林典雄・浅野昭裕
- 出版社:運動と医学の出版社(臨床家シリーズ)
- ページ数:約130ページ前後(図解・症例写真多数)
コメント